垂直統合は必要か?


そうですね。AppleGoogle垂直統合の企業と言われます。
私は、垂直統合それ自体は必要な場合があると思っています。垂直統合に伴って内向きで閉鎖的になってしまうことが悪いのだと思います。

経営学では、企業が垂直統合か水平分業かのどちらを選択すべきか(MAKE or BUY)は、取引コストで説明が可能です。


垂直統合を考える上で、一番大事なのは「取引コスト」という考え方。
「取引コスト」とは、売り手と買い手が取引をする際に発生するありとあらゆる費用を指す。提案活動をし、価格交渉をし、契約書をとりかわすなどの一連の作業にはコストが当然伴う。このモノの購入価格以外などとは別のコストのことを「取引コスト」*1という。「垂直統合の最も重要なメリットとは何か?」と問われれば、「取引コスト」を低くおさえ、機動的な経営を可能にすることと、私なら答える。

この引用させていただいたブログエントリは非常に参考になるのと思うのですが、以下のところの考察は同意できません。


情報技術の進展により「取引コスト」が全体的に削減され、従来と比較し「文系/スーツ族」による調整という「取引コスト」の必要性が薄れてきたのは事実。

私の考えは逆で、

  • 商品の特性として取引コストが少ない場面では、「文系/スーツ族」での調整で済み、水平分業が優位となる。
  • 商品の特性として取引コストが大きい場面では、エンジニア同士でしか理解できなくなり、垂直統合が優位となる。

と考えています*1

情報技術の進展により「取引コスト」が全体的に削減されているというのは確かですが、その同質化した競争の中で優位性のある商品・サービスを提供するためには、より取引コストの高い部分に注力しなければならないのが現状だと思います。


Apple では、その優位性はユーザビリティ(ユーザエクスペリエンス)でしょう。「ユーザビリティ」は極めて客観評価のしにくい品質指標*2であり、ユーザビリティへのこだわりは取引コストを増大させます。アップルは垂直統合からもたらされるユーザビリティを差別化要因として、競争に勝っていると私は見ています。


これはIT企業でも同じです。「ラフなコンセンサスと動くコード」が大事なのは、きっちりとしたコンセンサスに至るまでの取引コスト*3が高いからです。「発注企業」と「受注企業」、「デザイナー」と「プログラマ」と「DBA」と「インフラ担当者」が過剰に分業していては、まず動くコードを得るまでのコストが高くなります。「ソーシャル・ネットワーク」の映画でザッカーバーグFacebook を最初に立ち上げたときのように、すべてを独力でハックするのが、一番取引コストが低く、俊敏(アジャイル)なやり方です。

IT企業にとって垂直統合は必要です。ハッカー文化を活かすためには、外注(水平分業)よりも、内製(垂直統合)が必要なのです。



*1:よく、エレクトロニクス製品は前者、クルマは後者と言われます。クルマメーカーではゲストエンジニア制度など会社の枠を超えたケイレツ内のエンジニア同士の交流が重視され、スーツ族は重視されません。

*2:ユーザビリティ」をRFP(見積もり依頼)や、契約/検収条件として事前にきっちり定義するのは至難の業です。結果的に、満足できない水準のユーザビリティを持つシステムが納品されてくることになります。

*3:お金もさることながら、時間も!